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わたしの靴と、音也くんの靴を波のこないところに揃えて置いたあと、
わたしは恐る恐るつま先を水に浸けた。

【春歌】
「ひゃっ。つ……冷たい。
あ、でも、慣れると気持ちいい……かも」
【音也】
「でしょっ!ほらっ!春歌。こっちこっち!早くおいでよっ!
一緒に走ろうぜっ!あははははっ!」

音也くんが楽しげに波打ち際を駆け出した。

寄せては返す波、迫ってくる波から逃げるように走り、
引いていく波を追いかけるように歩く。

【春歌】
「空は明るいのに……すごい雨ですね」
【トキヤ】
「俗に言う天気雨という奴でしょう。きっとすぐにやみますよ。
しかし、濡れてしまいましたね。身体を冷やしては風邪をひいてしまう」
【トキヤ】
「寄り添いましょう。それで少しはあたたかくなると思いますよ。
さぁ、こちらへ……」

すっと肩を抱き寄せ、そのままご自分の胸へとわたしの頭を導いた。

【トキヤ】
「不思議ですね……。
ここには特別なものなど何もないのに。
何故だかとても満ち足りた気持ちになっている」

わたしを抱きしめ、空を見上げながら一ノ瀬さんがぽつりと呟いた。

【真斗】
「いいえ!自分の人生です。生涯の伴侶は自分で決めたい。
そうあるべきではありませんか?」

椅子を鳴らして立ち上がり、感情的に反論する。

【真臣】
「普通はな……。しかし、お前は違う。
お前はうちの嫡男だ。
結婚にも意味があると知れ」
【真斗】
「納得できませんっ!
俺には心に決めた人がいます。
他の女性と添い遂げるなど考えられませんっ!」

真斗くんがわたしの肩を引き寄せて断言する。

【レン】
「やれやれ、
せっかく恋愛映画の後にとムーディな音楽まで用意したっていうのに……」
【レン】
「いいのかい。
狼さんの前でそんな可愛い寝顔を見せたらぱっくり食べられちゃうよ?」
【春歌】
「……おかわりは……お鍋の中に…………」

なんだか眠たくてよく聞こえなかったけど、確か食べるって……

わたしは半分寝ぼけながらぼーっと何かを呟いた。

【レン】
「まったく……狼の腕のなかでこんなに安心して眠ってしまうなんて。
困ったお姫様だね……」
【那月】
「大丈夫。ほら……天井にお星様がいるでしょう」

耳元で囁き、わたしをそっと抱き上げると
ベッドに横たえ、天井を指差す。

【春歌】
「うわぁ…………」

天井にたくさんの星が映し出されていた。
たぶん、どこかの海辺の夜の風景。

キレイな写真が、白い天井に投影されて
まるでプラネタリウムみたいにたくさんの星が見えた。

ピンポイントでわたしのベランダに紙飛行機を入れるのは難しいみたいで、
下の路地にたくさんの紙飛行機が落ちていた。

【春歌】
「あ……」

紙飛行機を飛ばしていた翔くんと目が合った。
その瞬間、翔くんが思いっきり空へ向けて紙飛行機を投げる。

空へ飛んで行きそうなまでに高く高く飛び上がった紙飛行機はゆっくりと落下して、
わたしの手の中に収まった。

そこに書かれていた文字は……。

【春歌】
「……ふたりだけの秘密ですよ?」

一も二もなくセシルさんは頷いた。

【セシル】
「ワタシの鍵も……あなたのものです。
これでいつでも一緒にいられる。
とても嬉しい」

わたしたちは、お互いの鍵を交換した。

よく似た形に鍵に、猫のキーホルダーがついている。

キーホルダーについた鈴がちりんちりんと澄んだ音を立てる。

【光男】
「それより、ほれ……熱いうちに食え!
あ……ちょっと待て、熱すぎるのも良くねーな。
ふーーふーーー。よし、ほらよ」

楊枝で突き刺したたこ焼きを口でふーふー冷ましてわたしにくれた。

【春歌】
「熱っ。はふはふっ。
熱いけど、美味しいですっ!」
【光男】
「だろ? たこ焼きは焼きたてが一番だ!
熱いたこ焼きを食って、ラムネをぐびっと飲む!
これぞ、最高の贅沢ってもんだ!」

わたしの肩を抱き寄せ、カメラに向かって
ピースしている先生は自然体で。
いつも見ている雑誌のグラビアとは違う顔をしていた。

【林檎】
「ふふっ。よく撮れてる。知ってる? 
男女のツーショットって恋人同士以外は撮っちゃいけないのよ」
【春歌】
「え……?」
【林檎】
「冗談よ」
【林檎】
「ふふっ。いい絵がとれた」

いつの間にか、シャッターを押し、
先生がわたしを撮ると、悪戯っぽく微笑んだ。
その笑顔にドキっとしてしまう。

救急箱から消毒液を取り出し、手当てしようとした瞬間、
先生がわたしをぎゅっと抱きしめた。

【春歌】
「へ、あ、あの……。
だ、だだだだ大丈夫ですか……。
どこか痛いところが……」
【龍也】
「あぁ、胸が……胸が酷く痛むのさ。
さっき、お前が去ってく背中見て、あぁ、終わったなって思っちまった」

唇を震わせ絞り出すような声で言う。

【春歌】
「終わる……って……」

先生が何を言っているのかわからなかった。